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Silver Rain




…Come let yourself be Come see the possibilities…



















雨の夜だ。

音も無くサッシの外、バルコニーに滴る雨糸に目をやる。

時刻はそろそろ今日は終わり明日へと切り替わるという頃。

一日の終わりにやってくる、優しい時間。

俺は気に入りの音楽をオーディオから流しながら、何も考えない時間を過ごす。

と、自分で思いながら、何も考えない時間というものはあるのかと思い。

良く考えれば、何も考えない瞬間ならばあるな、と考え付く。

…無念夢想、と、古の剣術家達は言った。

確かに、戦いの最中勝手に体が動くことはままあることだ。

頭で何を考えるでもなく、体が勝手に敵を倒すための最善の動きを捨取し、何時の間にか敵を倒す。

その時、己がどのような技を用いて、どのように動いて倒したかなど、意外と覚えていないものだ、必死になるというのはそもそもそのようなことであろう。

だが――、今このような時間であれば。

適度な室温、適度な気だるさ、良い音楽、降りしきる雨、夜、微かに耳に届くのは潮騒。

独りきりであるからこそ味わえる、やくたいもない自由な思索だけが占める時間。



















さて、異国のベーシストよ、あなたは心の傷は愛に委ねてしまえばいいと歌うけれど

降りしきる雨のリズムに癒されるんだと奏でるけれど



















「…現実には、なかなかそうもしていられん」

これも外人と日本人の気質の違いか?いや、それをいったら自分の体にも半分は外人の血が流れているのだが。

子供はその土地のものだという、やはり生まれも育ちも日本ではなかなかそのようにはならぬということなのであろうか――…。

と、そこまで考えてそれこそやくたいもないな、と思考を止める。

…いかん、折角の音楽にケチをつけてどうする。

もう一度、アルバムの歌詞へと目を通して。

オーディオにタイマーをセット、ベッドに潜り込む。



















目を閉じる間際、もう一度アルバムの表に目を向ける。






Silver Rain_e0095441_3115054.jpg

マーカス・ミラー『Silver Rain』





…その穏やかなリズムに、いつしか眠りの国へと誘われていった。
by ryu-itirou | 2006-11-02 23:41 | Silver Rain