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Faker



 日中はやんでいた雪が、静かにまた降りだしていた。
 風は北西から。
 遠く海面を渡って来るそれは、冷えた体から最後の温もりの一滴まで絞りとろうと強く、吹き付けている。

 沈まずに残った輸送艦の甲板に立って、赤と黒に染まる空を眺めていた。
 …コツ。
 そっと歩み寄る足音、長い黒髪を靡かせて、彼女は自分とはまた別のモノを見ている。

 それは甲板一面に広げられたブランケット。
 その中にはある者は年老いた、またある者は年若い、戦いに傷つき、力尽きた者達(だったモノ)を静かに、しかし無機質に包み込むブランケット(死体入れ)。

 彼女はそっと、じっと、その中の一つを見つめている、つい先ほどまではその傍らに跪き、両手を組んでまるで祈りを奉げるかのように蹲っていた。
 いや、それは恐らく、本当に祈りを奉げていたのだろう。

 その中に眠るのは長い金髪の、いまだ年若い、いっそ子供とも言って良い少女だった。

 そう、子供だったモノ。
 己が感情に突き動かされ、それが正しいと声高に叫び、その果てに理想に殉死した子供。
 狡賢く周囲の顔色を伺い、阿り、時に声を潜め、時に理想を叫びながら生き汚く生に縋りつく――いっそ何時からかすら思い出せないくらい前から、そういう生き方をしてきた自分とは真反対に生きた人間だったモノ。

 愚かで、けれどだからこそ純粋だった少女のために、彼女は泣いていたのだろうか。
 背を向けて、ただ空を見ていた自分にはそれは判らない。

 彼女は声もなく、ただ隣に立っている。
 空には学園が手配したヘリが群れ飛び、生徒達の回収作業が今もまだ続いている。
 ふと、彼女の肩が震えた。
「寒いのか」
 もし寒いなら、早くに陸へ戻った方が良い。
 そう、声をかけようと視線を動かして、唇を閉じる。

 そうしてただ黙って、彼女の肩を抱き寄せた。
 そうしてただ黙って、暫く二人、赤く黒い空を、眺めていた。

 そんな戦争の終りだった。
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by ryu-itirou | 2009-12-20 23:07 | 雑記