2009年 09月 09日
百鬼夜行
嘘。 世界は嘘に満ちている。 虚構、仮講、フィクション、作り上げられた偽りの真実。 そう、それは世界結界と言う名の――。 …狐の尻尾には霊力が宿るという。 それはつまり、この世ならざる力を振るうための源であるということだ。 どうやらそれが本当のことらしいと知ったのは、学園祭が終わってすぐのことだった。 大怪嘯。 夜魔崩れ。 百鬼夜行――…それはもはや打ち捨てられた、今はもう、その真実の意味を知る者も、語る者も無くなった言葉。 だが、我が祖先らが偽りの幻想に負けず現代まで言い伝えて来た真言の中に、それは見い出すことが出来た。 大規模な、天災とすら呼ぶことが出来るアヤカシ――人ならざるモノ・ゴースト――達に寄る怪異の宴、死と暴虐の嵐。 それは時に。 天から降る詠唱銀が、地に染み込み水脈と交わり、大いなる力の流れ――『龍脈』と変じて再び天へ戻ろうとしてか、その霊威を地上へと振るうことにより偶発的に起こる事象であったり。 また、あの欧州の二度目の決戦の際、ちらりと見た黒衣の男と同じ力。 幾百、幾千のゴーストを己が身体に取り込み、または引きつれ己が力と化す能力、その顕現であったりしたという。 今回の、妖狐の文曲が語った百鬼夜行とは後者のことである。 まさに天災と呼ぶに相応しい、膨大なる詠唱銀の氾濫で引き起こされる大規模ゴースト事件。 だが先にも述べた通り、前者が偶発的な災害として起こるのと違い、後者は一個体の意思の下、一つの生物の如く夜空を埋め尽くすゴーストが息を揃えて行動する。 ……正直、大変性質が悪い。 一兵に至るまで忠実に、厳しく訓練された軍隊は、まるで一つの生き物の如き働きをするという。 巨大な体躯を持つ、正しく『化け物』と評すべきその力は、指先の爪の一枚で易々とニンゲンを引き裂き、腕を振るえば町を消すことすら可能だろう。 そういえば、その核となる人造ゴースト。 かの狂鬼戦争で敵として遭遇した『鬼』もそうだったとの話を聞いた時、人ならざるモノが作り出すゴーストを人造と言うのもどうか、と思いはしたが…言われてみれば、人間とてゴーストを作り出すのだ。 死と契約せし花嫁が創造するフランケン然り……俺達能力者が、ゴーストとして爆ぜる間際の残留思念を発見、処理するために、詠唱銀を触媒としてあえてその妄執をゴーストへと変えることも、人造ゴーストを作り出す儀式に他ならない。 そう、妄執だ。 人が死に際して抱く『感情』『想い』『執念』『無念』。 それを糧として詠唱銀はゴーストをこの世へと生み出す。 『再び』の生を与える。 ……それはつまり、妖獣を除くこの世の全てのゴーストは人造――人が造るゴーストに他ならぬということなのだ。 異界の理が、現世の魂に共鳴して生まれるのがゴースト。 その理を、世界の真実を知る数少ない組織――妖狐。 夏の終わりの嵐が、もうそこまで迫っているような――いや、これは台風が近づいているが故の杞憂だろうか。 すっかりと秋の気配漂う夜風を感じつつ。 ……物思う九月、その上旬の記録を此処に記す。
by ryu-itirou
| 2009-09-09 23:47
| 雑記
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