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学園事情その2



 さて、今回は通称ヨーロッパ依頼、【欧州よりの呼び声】について。


【欧州よりの呼び声】
 この依頼は俺も個人的に注目していたものであった。
 この春から卒業生となり、偽身符を用いることで学園生徒だった頃よりよほど自由が利く――違う言い方をすればより、人の日常(常識と言っても良いが)から遠ざかり黄昏の世界の住人に近づいた我が身には――向いた依頼であると思ったからだ。

 その依頼も、はや大詰めと言っても良いだろう。
 吸血鬼の協力を得て根城を構え、人狼――神戸から帰国していた人狼司令官ヘルムート――と合流し、彼らの協力者であろう能力者集団、ヤドリギの一族と接触した。
 ヤドリギ使いになろうという若者はその生涯にただ一度、祭りの村と言われる儀式を行うための村へと赴き、ヤドリギ使いに関する知識やアビリティについて学ぶのだという。
 それと同時に、行われる儀式がある。
 その儀式は毎回内容が変わるが、今回の儀式は何らかの使命がヤドリギ使いと…人狼にも与えられる、そしてそれを果たしたのちは『新たな力』が与えられるらしいとのこと。
 新たな力、というのも気になるが…彼が注目したのはその儀式に使用する聖なる枝と呼ばれる宝――恐らくメガリスだろう物品だった。
 その枝を用いた争奪戦に若者達が参加し、勝利した者が詠唱銀を得るための儀式を執り行う。その争奪戦の勝利者となり儀式へと参加、内容を探ってくれ、というのがヘルムートからの要望であったからだ。
 なぜならこの儀式に、人狼がネジを埋め込まれた原因となるものがあるのではないか。
 そうヘルムートは推測したようだった。
 これを疑うことに意味は無い。
 我々はすでに人狼と協力体制にあるのだし、学園より、よほどヨーロッパに――人狼とヤドリギ使いについて知るだろうヘルムートがそう言うのだから一先ずは提案に従うしかないわけだ。
 かくして儀式前の争奪戦は繰り広げられ、準備万端と儀式に臨める――その矢先。
 村を、血と狂気に彩る凄惨な惨劇が襲った。
 …ヨーロッパの吸血鬼組織からの迎え、という触れ込みで学園と接触してきたエレイン、という少女が居た。
 彼女の言葉を信じるならば神戸吸血鬼の首魁であるアルバートの従兄弟であるらしい彼女、そのたっての願いでヤドリギ使いの村近くまで共に赴いた彼女が、儀式の直前になってヴァンパイアを扇動、ヤドリギ使いの村を強襲したのである。

 この儀式には人狼の中でも特に偉大とされる10人が参加していたわけだが――確かに、欧州ヴァンパイアにとって、これは人狼の重鎮達を仕留める絶好の機会であったろう。
 そう、此処までのエレインの言動や立場を本物とするならば、どうやら最初から学園能力者をダシにして人狼に一矢酬いる腹積りだったようだ。

「尻尾に鼻面突っ込んで、怯えるが良いわ、人狼ども!」

 人狼を憎んでも飽き足りぬ、といわんばかりの彼女の言動。
 …察するに、ネジに操られていた人狼に、親なり親しい者を殺された――そんな印象も報告書からは受けた、もしこの推測が当たっているならば同情の余地こそあるものの、このタイミングでの裏切りは正直最悪である、迷惑千万言語道断である。
 これはつまり、ヨーロッパに送り込まれた学園の有志。
 彼らが空港を出てから城へと辿りつくまでに起こった襲撃も実は彼女の手の者が行ったことである可能性が高くなる、つまり芝居、狂言である。
 共に戦いを乗り越えた者同士に芽生える戦友的感情や、また共に居る時に襲われたことにより敵の敵=味方という擦りこみを行うことで不信感を拭う意味があったのかと思えば、敵がバラバラで連携が取れていないことや最終的にエレインが無傷であったことにも説明が付くというものである。つまり本気で倒すつもりなど端からなかったということであるからだ。
 が、此処まで過程したとして、一つ問題点が発生する。
 それはエレインが現れたタイミングの良さだ。
 どうやって能力者がヨーロッパへやって来ることを知ったのか、ということである。
 現実的に考えるならば、神戸の吸血鬼から連絡がいったとするのが妥当だ。
 しかしながらアルバートから「連絡して迎えをやる」という言質は貰っていない点も見逃せない。
 アルバートを信用するならば、神戸のヴァンパイアの中にヨーロッパ側と通じている者がおり、そちらにうっかり連絡を入れてしまった、または学園や人狼をまだ快く思っていないヴァンパイアが意図して連絡を入れたということになるだろう。
 神戸の吸血鬼が穏健派だとするならば、ヨーロッパの吸血鬼は「敵である人狼から逃げるなど!」と、戦うことを選択し、居残った面々であるということになる、普通に考えて協力は見込めるものではない。
 日本の吸血鬼にとっては、すでに協力体制を結んだ学園を介して人狼もまた、戦うべき相手では無くなった。
 連絡するならば当然そのことも含めて伝えはするだろうが――ヨーロッパに残った吸血鬼にとって、人狼とは未だに命がけで戦いあう敵に他ならないのだ。
 いきなりそんな相手のために協力してやれ、と言われて素直にはい、と頷ける者が居るわけがない、もしそう思っていたのならばそれはあまりに短慮が過ぎる。
 この点についてはヨーロッパ依頼がひと段落した後に、何かしらの接触、確認を取るべきだだろう。正直、今のままでは学園側として神戸のヴァンパイアに対して不信感を持たざるおえない、手落ちであったのかはたまた真に同胞足りえる存在ではなかったのか――折角親しく付き合いを持っていた相手ではあるが、はっきりさせておくべきだ。

 アルバートは嘗ての舞踏会にておいて…人狼から逃げてきた、と言った。
 これを信じ、現状学園側は吸血鬼を穏健派な来訪者と思い、協力体制を取っている。
 だがもし、エレインらが当然行うだろう行動を予測しながらヨーロッパヴァンパイアへの連絡を行ったならば…アルバートら神戸ヴァンパイアの行動は学園に対する完全なる裏切りである。

 最後に。
 アルバートと噂された謎の少年が、初めて日本へ降り立った際呟かれたと言われている言葉を載せて今回の考察を終わるとする。


~とある街角にて~

 なるほど、ここが日本という国か。
 近代文明の氾濫するこの国が、まさか世界最大のシルバーレイン降雨量を誇るとはね。
 『城』に閉じこもっていた僕達の日々が、まるで何もかも無駄だったかのようにすら感じるよ。
 何より、日本には美しい女性達が多い。
 この国と僕達の『運命の糸』が結ばれた事に、深く感謝しよう。

 さて、僕はこれから何をしようかな。
 そうだ、この国にも当然何らかの組織はあるのだろうから、人狼共がこの国に気付く前に、あらかじめひとつふたつでも潰しておくことにしよう。
 戦争時の拠点ぐらいには、なるだろうからね。








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by ryu-itirou | 2008-06-08 22:03 | 雑記